hisachiさん「あなたに会えるまでの1252日」 | 第1回ぐるっとママ懸賞作文

「私の出産」~母から子へ伝えたい言葉~

第1回ぐるっとママ懸賞作文

hisachiさん「あなたに会えるまでの1252日」

『私をお母さんにしてくれてありがとう』
 

「手が足りない!スタッフもっと呼んで!」
34時間46分の分娩時間を経て、やっと赤ちゃんが産まれたことを安堵している私に聞こえてきたのは、「おめでとう」の言葉ではなかった。

結婚してすぐ子どもが欲しかった。しかし、なかなか授かれず病院へ行くと"原因不明の不妊症"と診断された。
当たり前に授かれると思っていたのに…。次こそはと人工授精を繰り返したが授かれず、結婚して2年目には体外受精へとステップアップした。
毎朝の自己注射だけでなく、治療の休みを貰うたびに職場で頭を下げること、周りの妊娠報告など、苦しいこと聞きたくないことばかりの日々だった。
「自分の何がいけなくて妊娠できないんだろう」こんなことばかりを考えていた。

採卵後、2回目の移植で初めての陽性!足元がふわふわして、妊娠した嬉しさが身体中を駆け巡った。
しかしその1週間後、化学流産の診断。
私の初めての妊娠は、わずか1週間で終わってしまった。
「私のところに赤ちゃんは来てくれないの」もう何をしていいのかわからず、泣いて過ごす日が続いた。

そんな悲しみのどん底にいた私を突き動かしたのは、私自身の「赤ちゃんに会いたい!」という気持ちだけだった。
そこから病院を転院し、再度採卵と移植をし、1回目の移植で陽性。その2週間後には赤ちゃんの心拍を確認することができた。
「私のお腹に赤ちゃんがいる!赤ちゃんが来てくれた!」泣きながら赤ちゃんの心拍を聞いたことは、今でも忘れられない。

そこから40週3日が経った10月3日の深夜1時。腰に激痛が走り、陣痛が始まった。
陣痛が5分間隔になった早朝6時半に病院へ行くと、子宮口は3センチに。
とうとう出産だ!と覚悟を決めたのに、我が子はなかなか生まれてきてくれず。5分間隔の陣痛に耐え続け、長い長い夜を越した。
一睡もできず、迎えた4日の朝の診察。私の疲労が激しいということから、陣痛促進剤を使っての出産に進むことが決まった。
やっと、やっと赤ちゃんに会えるんだ!痛みと疲労でヘロヘロの中、助産師さんに励まされながら、分娩に向けて準備した。
午後2時。とうとう本格的に分娩開始。ところが赤ちゃんは横を向いて出てこられない状態。
最後は吸引分娩となり、タイミングを合わせ、思いっきりいきんだ!「ドルンッ‼︎」という感覚と共に「オギャー!!!」という大きな産声!「産まれた!やった!やっと産まれた!」この時は安堵感しかなく、周りのお医者さんの異変に気がつくまでに時間がかかった。
「手が足りない!もっとスタッフ呼んで!」「ルートもう一本とって!輸血準備!」
寝ている私の上でこんな言葉が飛び交っていた。
何が起こっているの?なんでまだ赤ちゃんを連れてきてくれないの?そばにいる助産師さんに尋ねると、どうやら私の胎盤が剥がれず、そこから出血があるということだった。
段々寒くなり、身体は自分では止められないほど震えていた。
あとから聞くと、すでにこの時、出血量は3000mlを超えていたらしい。
「私は赤ちゃんに会えないまま死ぬのかな…」そんな思いがよぎった。その時、私の枕元に赤ちゃんがやってきた。
真っ赤な顔、とがった唇、小さい手。何もかもが愛おしく感じた。「この子のためにも死ねない!」

その後、縫合や輸血などの処置を終え、産後の後遺症にも悩まされながらも、可愛い我が子との毎日を過ごすことができている。
子育てをする中で、苦しいことも辛いこともたくさんある。
でも、この子に会うまでの苦しみや辛さに比べたら、何でも乗り越えられる気がする。私はこの子に会うためにずっと待っていたのだ。子どもを見るたびに思う。

「私をお母さんにしてくれてありがとう」

 

青森県 hisachiさん 
題名:あなたに会えるまでの1252日
子どもへ伝えたい言葉:「私をお母さんにしてくれてありがとう」